初心者のための陶磁器哲学~その2量産品とハンドメイドの付き合い方~
いらっしゃいませ!
本日は陶磁器の哲学する第二回となります!
まずは前回のおさらいから。陶磁器の名作を見極めるには?そもそもどんな作品が名作たりうるのか?と自問自答をしたところ以下の条件が浮かび上がってきました。
①陶磁器は伝統工芸であり、歴史によって確立・継承されてきた独自性と人と自然の調和が魅力の本質である。
②陶磁器は土の魅力を味わう工芸品。土の味わいをごまかすような作品はご法度。
③名作は正面以外から見ても絵になる。あらゆる角度から見てもインスピレーションを掻き立てられるような作品こそ名作。
これらが私の思う名作の条件ということになりました。これからお気に入りの作品を見つけたいという方はぜひ参考にしてみてくださいね。

↑…とここまで書いて、自分の1番のお気に入りが②に反していることに気がつく。…この子は話が別だ。陶磁器を愛するには時に我が道をゆく勇気も大切である。
ということで今回も名作の条件を哲学していきましょう。今回は伝統か革新か。名作の条件としてのハンドメイドの重要性を哲学したいと思います!
【すごいぞ量産陶磁器】
前回の記事でお話しした通り、伝統工芸の認定条件には工程の大半を手作業が占めるという項目があります。
陶磁器を語る以上、ハンドメイドについても言及は避けられませんよね〜。世間話でいうなら「自炊派か外食派か」といった論争があるように、陶磁器にも手作り論争は頻発しています。ちなみに先に申し上げておきますと、わたしは自他ともに認めるハンドメイド大好き派です。


ただ所持しているうつわを見てみると、ハンドメイドと機械量産品の比率は8:2。まったく量産品を使っていないという訳でもありませんし、量産品には手作業には出せない使い手としてのメリットがあると思っています。
正直どっちにもメリットはあるんだからどっちも堂々と使いなさいよって言いたいところですが、投げやりではなくここはやはりちゃんと言語化すべきですね。

そもそも日本における陶磁器の近代化が始まったのは明治時代に遡ります。技法が確立してすでに100年以上経過しているため、機械量産も今や歴史ある製法です。
シールや印判などにより手作業とは比べ物にならないスピードで陶磁器が生産できるようになった機械生産は、かつて平安貴族御用達・バリバリ高級路線だった瀬戸焼をコストダウンにより大幅値下げさせるほどでした。これにより一般市民が陶磁器を手に取りやすくなり、陶磁器が普及する結果をもたらすことになりました。機械化による陶磁器普及がなければ私にように陶磁器を趣味にするという発想すら生まれなかったかもしれません。
昨今では耐久性も増しており、従来の陶磁器に比べてかなり割れ肉というのもポイントでしょうか。気兼ねなく長く使いたいという方にもオススメの選択肢ですね。

↑瀬戸焼の生産量を物語る山積みの売り場。冷静に見ると下の食器が重みで割れていないのが凄い。それだけ丈夫ということか。ちなみにこの光景は令和に撮影したものである。
機械生産のメリットはまさにその安定感とローコストにあります。デザインにブレが少なく、一定の技量があれば一度に大量の陶磁器が生産できるため一個当たりの価格がかなり抑えられます。
最近の日本で機械生産を上手く取り入れているのが石川県は九谷焼の青郊窯です。青郊窯の製品は国内屈指の出来栄えで九谷焼特有の盛り上がった絵の具や艶感まで再現されています。事前知識が無いとおそらく量産品と見抜けないクオリティで、私が知りうる国内量産陶磁器では最高峰と断言できる品物です。


↑私物の青郊窯の小皿。量産品特有のインクの斑点、ボロが出やすい赤の違和感も見られない。このクオリティで新品価格は1,500円もしない。同レベルの手書きなら5,000円を超えてもおかしくない作品だ。
【味わったら最後。魔性の”個体差”】
安定して同デザインを揃えやすい。価格も半分かそれ以上に安い。ここまで聞けばもはや無敵にも思える量産品ですが、いざうつわ好きの皆さんに聞いてみるとハンドメイド作品にこだわる方が多いのです。私も例に漏れないのですが、これはどういう訳でしょうか?
「量産品はデザインが魅力的ではないから」ということは断じてありません。
たしかにデザインの豊富さや独創性はハンドメイドの強みです。しかしそれはあくまで選択肢の多さの話であって優越の話ではないと思うのです。量産品にも優れたデザインで人気を博しているものもあります。
英国陶磁器の名窯・ウェッジウッドは主製品の大半を機械生産が占めていますが、毎年新デザインをリリースしていますし、中でもワンダーラストシリーズは販売当初は人気が凄まじく正規店では品切れが続出。フリマサイトや大型ECサイトでは定価の1.3倍で出回るなどプレミア化もしたこともあるほどです。たとえ量産品でも魅力的な作品は生まれるのです。

↑スタッフ私物のウェッジウッドよりワンダーラスト・プリムローズ。正規店で購入したのは品薄が落ち着いた約1年後。
ではなぜ人々はハンドメイドにこだわるのでしょうか。その決定的な差はまさに人であること。つまり個体差です。
私の持論ですが量産品の強みは「安定して80点を出せる代物」と定義しています。ちなみに100点満点です。
というのも陶芸家の方からよく聞く話なのですが、陶磁器を作る要素は土が8割。残りの2割は人の技術と窯の気まぐれが半分ずつというのです。熟練の陶芸家は焼成技術が優れている点やガス窯の登場を考慮しても作品に人が介在できる余地はせいぜい2割ということです。それだけに土の優越がものを言う、わりと残酷な工芸だったりします。有名な窯元しか使えない土とかありますからね。
これは使い手である我々にも言えることで、大半の陶磁器というのは好みに対して80点は付けてもいい作品だと思っています。ただしこの80点を超えてくるラインが「見ているだけ」と「購入」を分ける境界線なのです。そしてその境界線を覆すのが個体差なのです。
みなさんは陶磁器を迷った末に買わなかった理由って覚えていますか?買ったことがない方は洋服でもいいです。「もう少し色味が違ったら…」「大きさがひと回り違ったら…」というように80点は付くけどあと一歩。なんて覚えがあるんじゃないでしょうか。
この時迷っていた商品が量産品なら買い物はそのまま終わりでしょう。売り場に品数があってもそこにあるのは同じ完成度ですからね。しかし、迷っていた商品がハンドメイドの場合はここで終わらないのです。
陶磁器のハンドメイドというものは中々に個体差が出るものです。同じ名前の作品でも色味は結構変わりますし、大きさもひと回り変わったりもします。そう、これは人によって違う「あと少しこうだったら」という好みの差を埋める要因になるのです!

↑同じ作家の湯呑。どちらも同じ日に購入したため、制作時期…つまり作風よるに大きな差異はないと思われる。個体差というのはここまで大きく表れることも。
同じデザインでもまるでオーダーメイドのように自分の好みドンピシャに当てはまる作品に出会うあの感動といったら!!アレを味わってしまうと量産品で好み通りの買い物をするのが難しくなってしまいますね。
【適材適所を知って使おう】
さてここまで話してきましたが、ここで話を止めてしまうと「結局のところ手工芸品の方が優れているの?」という結論になってしまいそうですね。なのでもう少しだけ。
食卓というものはひとつの食器では完成しません。最近ではワンプレートスタイルも浸透してまいりましたが、それでも茶碗や汁椀、スープ皿、小皿等は出番があるものです。そこで私が最近意識しているのは量産品と作家作品のそれぞれの役割を意識して食器を揃えるという点です。
・量産品:安定したデザインの食器が比較的安価で数が揃う。→統一感のあるデザインや引き立て役の食器がおすすめ。
・ハンドメイド:デザインの幅が広く、個性や好みを反映しやすい。→メインデッシュやパーソナルアイテムに最適。
量産品はデザイン性の安定感が強みです。洋式スタイルやお招きするお客様が多いとき、さらにはモダンスタイルなど統一感を演出したい際に非常に役立ちます。
さらに突出しすぎないデザインというのは食卓において他の食器の個性とぶつかり合いにくいということにもなります。漬物や珍味、薬味に漬けダレなど主役ではないものの欠かせない存在に使用する食器を量産品で揃えると良いでしょう。低予算でまとまりのある食卓を作れますよ!

↑統一感のある食卓の例。個で見ると突出したデザインはなくとも、相対的に見れば中々にカッコいい。

↑料亭や旅館の食器を観察してみると思いのほか量産品が活躍しているのが分かる。写真の場合、下に敷いている皿以外は量産品。どんな陶磁器も演出の仕方次第ということだ。
対してハンドメイドは個性を存分に活かせる舞台を用意するのが良いでしょう。食卓のメインディッシュや自分の好物などをよそうお皿は思う存分に目立たせてあげましょう!
またご飯茶碗やマグカップなど特定の人が使いやすい食器もハンドメイドで用意するのもおススメです。こういった食器をテーブルウェアコーディネート界隈では「パーソナルアイテム」と呼びます。自分にピッタリなうつわを使うと食事に対するモチベーションも変わりますので、ぜひこだわってみてください!!

↑湯呑、茶碗、カップなど。自分が使っていて楽しいかを最優先に選ぼう。
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ということ今回のまとめ!
陶磁器を使う上で必ず突き当たる問題の壁・量産品かハンドメイドかの論争。
しかし両者ともいがみ合うのではなく、安定したデザイン性の量産品は統一感を意識したい時に重宝し、メインデッシュやパーソナルアイテムには個性を生かしやすいハンドメイドといったように、役割を意識して揃えれば素敵な食卓を作り上げることができます!
とはいえこういうのを気にするのはある程度うつわが揃ってきたらのお話し。最初のうちはとにかく気に入ったうつわを買い求めるのが良いですよ!私も他の食器との組み合わせを意識しだしたのはここ最近ですしね~。
さて、次回はいよいよ実践編。食器を使うという側面に入っていきます!
ということで今回はここまで。それではまた~!

