うつわ雑学

美味しい=味覚じゃない?うつわを使うということの基礎。

ssyouhei

いらっしゃいませ!

先日近所の料理屋に行ってまいりました。

 この店はひそかな私のお気に入りでほぼ常連さんみたいな感じになっています。お世辞にも味も見栄えも上等とはいえませんが、気兼ねなく通えるお店でして。なにより良いうつわを使っているんです。

 嘘です。

 実はスーパーで買った刺身盛り合わせを自前のうつわに盛っただけです。騙されましたか?騙されなかった方は「騙された」という体にしてください。話が始まらないので。

※そして賞味期限の日付がエラいことになっているのも気にしてはいけません。先日(3年前)の写真を使っただけなので。

 ということで今回はうつわにおける基本のキ。なぜ食器使うのか?という話をしたいと思います。この辺の話に関しましては私、食空間コーディネーター3級なる資格を持っていますのでお任せください。

 さて、この話を始めるにはまず我々人類の独自文化「食事」について考えてみる必要があります。食事の本質とは栄養摂取。我々生命は自分以外のものを喰らうことで、単体では生成不可能の栄養素、エネルギーを獲得し、生命を維持しています。これは食事を摂る人類と、捕食をする人以外の生物・獣に共通していることですね。

 では、人の「食事」と獣の「捕食」の決定的な違いとは何でしょうか。同じ生命維持でありながら、人類が築き上げてきた文化である食事の特異性。それは「精神的満足」を求める点にあります

 前述のとおり食事の根底にあるものは生命維持。これができれば人は生きていくことができます。極端な話、栄養価さえ取れれば画像のようなサプリメントをガブガブ飲んでればいいんです。(生成AIって便利~!

 しかしながら、果たしてこれを食事と呼べるでしょうか?おそらく大半の人が首を横に振るでしょう。そうです、その拒否反応こそが食事の特異性の証拠。人は生命維持に栄養価と、「美味しい」という精神的な充足を求めているのです。心身の満足。これが「食事」なのです。

 生命維持行為という観点から見た食事がいかに特異か分かったところで、次に人が感じる「美味しい」のメカニズムから見ていく必要があります。人は何をもって「美味しい」と感じるのか?これが理解できれば食器をこだわる理由が見えてくるかと思います!

 人の「美味しい」は五感によって決まるといわれています。「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」の五つですね。このうち「視覚」「味覚」「嗅覚」はイメージしやすいかもしれませんが、「聴覚」「嗅覚」は使っているか?って思うかもしれませんね。これが意外に使ってるんですよ。試しにステーキハウスを思い浮かべてみてください。

 落ち着いた光源のムーディな客席。控えめなBGMの、他のお客様が談笑しながら食事を楽しんでいます。そんな中、いよいよあなたの前にステーキが運ばれてきました。

 程よい焦げ目と照りのある肉。鉄板の上に置かれたステーキは「ジュウウウ」と音を立ており、今なお熱を帯びた焼きたてです。焼き上げの際に使用したバターの香り。ともに運ばれてきたステーキソースの香り。ナイフを通すとスッと切れ、美しい赤身のミディアムレアが現れます。一口大にカットし、口に運ぶと歯切れがよくとも、噛み締めるにはちょうどいい弾力。焦がしたバターによる豊かな香りが鼻を抜け、そして溢れ出る肉の脂の甘味は塩との相性が抜群。飲み込んでなお余韻が口に残る、格別な味わいです。

 …どうでしょう。ステーキが食べたくなりましたか?じゃなくて…結構五感を使ってますよね?まとめるとこんな感じでしょうか。

【視覚】店の雰囲気、料理の見た目

【聴覚】店内BGM、人の話し声、調理中の音

【嗅覚】料理や店内の香り、口に入れた風味

【触覚】料理を摂るときの感覚、噛み応え

【味覚】料理の味わい

 こうして見てみると、味覚の出番ってあまりないんですよね。ある実験では感覚遮断をしながら食事による味の影響について調べたところ、味覚による美味しいへの影響はわずか5%しか作用しなかったそうです。5%っていったらアンケートなら「その他」ですからね。それくらいの少数派なんです。味覚。

 逆に美味しいに一番作用する五感はというと、これが視覚なんです。美味しいに作用する視覚の割合はなんと80%以上。圧倒的シェアを誇っていますね。

 これを裏付ける証拠としては、我が国日本の食文化・和食が無形文化遺産に登録されたことが挙げられます。世界遺産に登録されるには基準となる構成要素、つまり理由が複数個必要なのですが、和食が認定された理由は4つ。その内の3番目は以下の通りとなっています。

(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現:食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品やを利用したりして、季節感を楽しみます。(農林水産省HP『「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されています』より抜粋)

 どうでしょうか。和食というのは食材を切る、煮る、焼くだけではないんですよ。季節感を体現するために花や食器などで料理の飾りつけをすることで初めて完成するんです。食器も含めて初めて和食なのです

 ここまでお話すればもうお判りでしょう。食事で一番重要になるのは視覚情報、つまりは見栄えです。そんな料理の見栄えに華を添えているのがほかでもない食器です。つまり我々人類は、食事をより美味しく、豊かに食べるために食器を使っているのです!!

 近代日本美術の巨匠・北大路魯山人。書に絵画、陶芸といったあらゆる日本の美を収めたかの人物は稀代の芸術家であり、美食家でもありました。料理に合う見つからねえって理由で陶芸を始めて歴史に名を残したこの男はこのように語っています。

「器は料理の着物である。」

 食器があるからこその料理であって、料理があるからこその食器。皆様には食器を使う大切さを考える、そんな一端を担えたかな~と思います。少し長くなってしまいましたが、今回はここまで。今日も素敵なうつわ生活を!

…しかし我ながら本当に長く書いたな。何文字書いたことやら。え~っと文字数カウントは…2500文字以上!?

店主紹介
気楽なスタッフ
気楽なスタッフ
現役サラリーマン
現在20代後半。大学生の時に観たドキュメンタリーがきっかけでうつわに魅了された男。

「ひとりでも多くの人がうつわに込められたメッセージを楽しんでほしい!」をテーマに活動すべく、個性豊かな愛用のうつわに振り回されつつ生活をしている。

愛用のうつわは笠間焼、備前焼、九谷焼きなど日本陶磁器が中心。西洋磁器はウェッジウッド、マイセンがお気に入り。食空間コーディネーター3級を持っています。

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