うつわ雑学

くらしに寄り添ううつわ・砥部焼

ssyouhei

 いらっしゃいませ!

今回もまた新たな陶芸産地に行ってまいりました!ズバリ砥部焼です!

 砥部焼は愛媛県砥部町にて栄える陶磁器生産地。同県屈指の観光地である松山市から車で30分くらいの場所にあります。観光がてらよれる距離感ですね。

 砥部焼は江戸中期から続く歴史ある陶磁器産地です。有田焼が全盛を誇った当時、それまで門外不出とされていた磁器生産技術が北九州を中心に流出します。地理的に四国は北九州と目と鼻の先。砥部のこの地にも技術が入ってきたのでしょう。

 当時の磁器産業は金になる一大産業。資金難に陥っていた伊予大洲藩は財政回復のために磁器生産を始めますが、磁器生産における大きな障害が立ちふさがります。それは陶石が獲れないことです。磁器の生産には陶石が必要となりますが、この陶石はどこでも手に入るわけではありません。磁器を作るには土地に愛される必要もあるのです。

 …ところで皆様はボーンチャイナをご存じでしょうか?ボーンチャイナは西洋テーブルウェアによく見られる磁器材質の一種。生地に動物の骨を混ぜることで白を作り出すことに成功した陶磁器です。ちなみになぜ動物の骨を使ったかというと、陶石が採取できなかったからです。

 そう、確かに磁器の生産において陶石は必要ですが、必須ではありません。他のもので代用できるのです!

 という訳で陶石を持たぬ彼らが見出した代替品は砥部の地で生産が盛んだった砥石の破片・砥石屑でした。磁器生産地・肥前より陶工を招き入れた彼らは研究の末、ついに磁器を完成させます。白くて丈夫な砥部のうつわは庶民の暮らしに浸透していき、今なお多くの人に愛されています。

 砥部焼は陶器と磁器の両方を生産する産地です。歴史的に見れば砥部焼は陶器生産が先に行われた産地です現在でも陶器や磁器かかわらず、非常に趣深い絵付けが器面を飾っています。食洗器や電子レンジ対応の物も多く、値段も3,000円以下の物がほとんど。今まで見てきた絵付けを得意とする産地の中でも、かなり親しみやすい産地でした。「この出来でこの値段!?」みたいのが多いんですよ砥部焼。

 歴史的に肥前。現在でいう有田焼の技術を含む分、有田焼のニュアンスを感じることが多い砥部焼。しかしながら実際に比べてみると大きな違いがあることが分かります。そればずばり、うつわの厚みです。

 有田焼の磁器は非常に薄口です。うす張りの陶磁器はそれだけ延ばされた証拠であり、造形的な自由度やアーティスティック性が高い陶磁器が多いです。が、当然衝撃に弱く、破損に弱いという弱点も孕んでいます。

 対して砥部焼は厚みのある造形をしている食器が多いのです。私が持っている食器でも屈指の厚さです。食器でその厚さを図ってみると、同じ磁器生産地である有田焼・九谷焼はだいたい3,5mmが平均値。対して砥部の食器は7mmもありました。なんと倍です。厚みが増える分重くもなりますが、ただでさえ固い磁器をこの厚さで作ればその耐久性はべらぼうに高いでしょう。実用性重視の庶民の食器は伊達じゃありませんね。

 そんな砥部焼ですが、地元でもとにかく暮らしに近いうつわです。隣町松山市でも至る所で砥部焼を見ることができます。飲食店でも和食はもちろん、カフェまで砥部焼をしようとしており和洋ともに使えるくらしのうつわとしてのポテンシャルを存分に発揮しております。松山名物・鯛飯のお店でも砥部焼は大活躍。

 松山市内を走る路面電車の中には砥部焼電車なるものが走っています。手すりに砥部焼の蕎麦猪口がついていたり、代表窯元が紹介されていたりとうつわ好きとしては大変興味深い車両でした。

 砥部焼は大型作品や陶板アートも豊富。特に先日回収が終わったばかりの日本最古の温泉・道後温泉には、よくある温泉アートの代わりに砥部焼の登板が使用されています。青と白とは思えないスケール間は見ていて圧倒されますので、ぜひ正面を陣取ってご覧くださいませ!!あれは必見ですよ!温泉は気持ちいいし、陶板は美しいしで大満足です。

(画像引用:公益財団法人 松山観光コンベンション 道後温泉本館(神の湯)1|フォトギャラリー|公益財団法人 松山観光コンベンション協会 ~いで湯と城と文学のまち・松山へようこそ!~ (mcvb.jp)

 その美しさから世界中の愛好家を魅了した有田焼。その全盛期に生まれ、対照的に人々の暮らしに寄り添うことをとことん突き止めた砥部焼。その信念は今なお変わることなく、くらしの中で確かに輝いているのでした。日用は道具の真骨頂。しかしただの道具ではなく、美しさも兼ね備えた砥部焼は工芸品として理想的のうつわと言えますね。

 今回はここまで!次回は現地の産地訪問記をお届けいたします!それでは~!

店主紹介
気楽なスタッフ
気楽なスタッフ
現役サラリーマン
現在20代後半。大学生の時に観たドキュメンタリーがきっかけでうつわに魅了された男。

「ひとりでも多くの人がうつわに込められたメッセージを楽しんでほしい!」をテーマに活動すべく、個性豊かな愛用のうつわに振り回されつつ生活をしている。

愛用のうつわは笠間焼、備前焼、九谷焼きなど日本陶磁器が中心。西洋磁器はウェッジウッド、マイセンがお気に入り。食空間コーディネーター3級を持っています。

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