うつわ雑学

初心者のための陶磁器哲学~その1良い陶磁器の探し方~

ssyouhei

いらっしゃいませ!

いや~お久しぶりです。前回の投稿は…3月ですか!!皆さまお元気でしたか?

数か月の沈黙などなかったかのように始めていきますよ~。

先日、私の友人からこんな質問をいただきました。

焼き物の良し悪しの見分け方ってどんな風に見分けるんだ?

私は歓喜しました。「ついにこのステージまで来たか。」と。何度も家に招いて食事会を装った啓蒙活動の甲斐がありましたね。

これはおそらく陶磁器が好きな人間なら誰もが経験する悩み、壁といってもいいでしょう。私なんてこの壁にぶち当たってから乗り越えもせず、突き破りもせず、壁ごと押し続けて「うつわ道」を歩んでいるようなものです。

まあ私はともかくですが、友人曰く書籍などで勉強しようにも載っているのは技法や歴史のみで、名作・駄作の見分け方が分からないというのです。

出来栄えに言及する書籍が無くもないのですが、そういった本の大半は博物館で展示されているような国宝級の品を例に挙げています。たしかに鑑賞という目線では参考になるのですがジャンルとしては骨董寄りになりますし、現代生活で使うという目線からは遠い世界すぎて自分ごとにしにくいのです。現代工芸の良し悪しの話って確かに少ないんですよね。

ちなみに私の勉強方法といえば生業としている古物商の査定や休日の産地訪問が主流です。産地訪問に至っては仕事を始める前からやっていますので、人より現物に触れる機会が多くあったとは自負しています。人よりはね。

つまり結論から申し上げると「ひとつでも多くの作品に触れ、自分の中の価値観・基準を作り上げる事」こそが正攻法なのです。たとえ道半ばでも経験値がものを言うのです。

加えて陶磁器は嗜好品。人の数だけ価値観があり、人の数だけ答えがあるもの。これに明確な答えを言い切るのは不可能でしょう。

が、わたしの目標はひとりでも多くの人が日本焼き物の魅力に気が付くきっかけを作ること。そのためには「百聞は一見にしかずじゃあ!」と突き放すのではなく、自分が得た知見はハッキリと言語化することに他なりません!

ということで今回は友人のお悩み解決&自身の知見のアウトプット!うつわに触れ続けた知識、経験からあらためて陶磁器という存在を問い、探求する。すなわち『哲学』することで、これから初めて陶磁器に触れるみなさまの知見を少しでも広めていけるきっかけになればと思います!!

ということで連続投稿シリーズ、題して「初心者のための陶磁器哲学」スタートです!第一回は良い陶磁器の探し方です!ぜひお付き合いくださいませ!

【陶磁器は伝統工芸品】

ということでさっそく始めていきましょう。改めて陶磁器を観る際に理解しないといけないといけないのはなにかな~と考えてみたところ、陶磁器=伝統工芸品という大前提を心得ることかなと思いました。

みなさん伝統工芸品ってどんなものか説明できますか?

伝統工芸品の管理を担っている経済産業省のHPより抜粋&端的に表現いたしますと

①主として日常生活の用に供されるもの→使用感

②その製造過程の主要部分が手工業的→誤差を楽しめる

③伝統的な技術又は技法により製造されるもの→時代に左右されない価値

④伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるもの→自然との調和

⑤一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの→独自性

この五つの条件を満たしているものが伝統工芸品足りうる条件です。要約すると「特定の地域で製法が確立・継承されてきた、天然素材かつハンドメイドの日用品」ということです。

日本の陶磁器生産もこの伝統工芸の例にもれない以上、作品の評価点も伝統工芸の条件がそのまま当てはまります。だからこそ陶磁器の評価点を理解するには伝統工芸の評価を把握するのが手っ取り早かったりするのです。陶磁器以外の工芸品も楽しめるようになるのでお得ですしね。芸術ってすべて陸続きなんですよね。

【土に正直である】

大まかな評価点が分かったことで、ここからは特に気にしたいところを抜粋していきましょう。

前述のとおり嗜好品である陶磁器は人の数だけ価値観がある相対的なものです。が、陶磁器には唯一絶対的な評価点。強めの言葉を使うならば名作と駄作を分ける決定的なラインがあります。それは素材としている土をごまかしていないか、という点です。工芸の条件④のお話ですね。

陶芸家の皆様とお話をすると口をそろえておっしゃるのですが、陶磁器とは土の芸術なんです。絵付けや施釉など陶磁器を装飾する技法は多くありますが、陶磁器の生地となるのはその地域の土壌からつくられた粘土。いわば大地そのものを使用した芸術です。

鑑賞していて意識が上滑りしてしまうような作品というのは得てして土との調和が上手くいっていないのです。大量生産陶磁器にありがちなのですが、釉薬コーティングをしすぎて器面全体に艶が「出すぎている」作品は素材である土の魅力を潰してしまっています。素材へのリスペクト不足と言ってもいいでしょう。

↑どちらも同じ黄瀬戸と呼ばれる作風。右は釉薬が多く施されており艶が出過ぎている。これでは魅力的な土の風味が味わえなくなってしまう。

↑有田焼の最高峰・柿右衛門窯。絵を引き立てる美しい白は研究の末に生み出された生地の色そのもの。名作は土をごまかさない。

【あらゆる角度から楽しめる】

有田焼や九谷焼など絵付けや彩色技術の素晴らしさで評価を受けている日本陶磁器ですが、そんな傍らで土の成分と焼き上げる火の温度、燃料となった蒔の灰だけで作品を作り上げる、なかなかにストロングスタイルな製造をする地域があります。それこそが焼き締めです。

焼き締めはそのシンプルさながら技法は約1000年前に確立された超ロングセラー。日本初の絵付け陶磁器である有田焼こと伊万里焼の誕生が約400年前だったことを考えるの、その歴史の長さは圧巻ですね。

そんな焼き締めの鑑賞のコツは全体に見所を見出すこと。シンプルな焼き締めは、時に人間の想像力によって無限の世界観を生み出すことになります。パノラマの絶景のようにあらゆる角度から見てもインスピレーションが掻き立てられる焼き締めこそ、名作の証なのです。

じつはこれ、別に焼き締めに限った話じゃないな~と最近思い始めました。作品には一番の見どころになる正面というものが必ずあるのですが、名作は正面以外から見ても魅力的に見えるものです。長い付き合いの友人や恋人は欠点に思えるようなところも魅力的に見えるものですが、陶磁器もこれと一緒です。何所から見ても絵になる。というのは意識して作品選びをしたいものですね。

↑スタッフの私物・九谷焼の金彩松紋香炉。スッキリしている面が裏。豪勢な表面に対し、この閑静な顔つきの二面性が実に飽きの来ない使い心地で気に入っている。

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ということで今回は陶磁器の名作たる条件を哲学してみました。

書き出してみると我ながらまぁ~長いこと!!笑。読書感想文が苦手だったあの頃が嘘みたいです。

あまりにも長すぎたため今回は序論ということでここまでとし、まとめに入りたいと思います!

陶磁器は伝統工芸であり、歴史によって確立・継承されてきた独自性と人と自然の調和が魅力の本質である

陶磁器は土の魅力を味わう工芸品。土の味わいをごまかすような作品はご法度

名作は正面以外から見ても絵になる。あらゆる角度から見てもインスピレーションを掻き立てられるような作品こそ名作

みなさんが普段使うような食器や花瓶など、陶磁器で作られている品物を選ぶときにはぜひ参考にしてみてくださいね!!

次回は昨今の陶磁器事情のデリケートな部分。名作の条件という視点からハンドメイドと量産品の差を哲学していきます!

ということで今回はここまで。それではまた~!

店主紹介
気楽なスタッフ
気楽なスタッフ
現役サラリーマン
現在20代後半。大学生の時に観たドキュメンタリーがきっかけでうつわに魅了された男。

「ひとりでも多くの人がうつわに込められたメッセージを楽しんでほしい!」をテーマに活動すべく、個性豊かな愛用のうつわに振り回されつつ生活をしている。

愛用のうつわは笠間焼、備前焼、九谷焼きなど日本陶磁器が中心。西洋磁器はウェッジウッド、マイセンがお気に入り。食空間コーディネーター3級を持っています。

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